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絶滅したとされる幻のニホンオオカミを見たかもしれない


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2015年9月夜、私は長野県南信地方のとある深い山道を運転していた。と、そのとき突然、車の前30~40m先を走る動物が視界に入った。その動物は中型の哺乳類。10~15秒ほど車の前を軽やかに走り、そのあと道路脇の暗闇の中に消えていった。

 

私は当時大学院生で、野生生物の保全に関わる研究に励んでいた。南信地方の山道にいたのは自身の研究、野外調査のため。助手席には研究室の後輩が座っていた。

 私: え、あの動物なに?
 後輩:んー…なんですかねー。
 私: シカじゃなかったよね?シカにしては小さいし尻尾長かったし。
 後輩:シカではなさそうですね。
 私: 大きさ的にキツネでもなくない?未確認動物?
 後輩:ハハハ、そうかもしれませんね。

 

当時の会話はこんな感じだった。野生生物に関する研究をしていた私も後輩も、哺乳動物にはそこそこ詳しく、日本本土に棲む地上性の中・大型哺乳類については全種類を大まかに同定(生物学用語で、分類上の所属や種名を決定すること)できる目を持っていた。そんな私たちでさえ、この動物が何物なのか全く検討がつかなかった。

目撃した動物の特徴

我々が見た哺乳類の特徴は次の通り。

 ・キツネやタヌキよりやや大きく、成体のシカよりはずっと小さい
 ・尻尾が細く長い
 ・頭を持ち上げた姿勢で走り、走り方は軽快(全身を使って一生懸命走っているような感じではなく、肢だけの力で軽々と走っている感じ)

【研究ノートに記した当時のメモ】

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小鹿ではないかとも思ったが、尻尾が細く長いことからおそらく違うと考えた。キツネも疑ったが、(1)その動物の尻尾はやや細めで(キツネはより太い尾を持っている印象)、キツネほど長い尾ではないように見えたこと、(2)体高がキツネより高い印象を受けたこと、の2点より、これも違うな思った。

 

ちなみに、自身の調査地周辺には多くの哺乳動物が生息しており、夜の調査時にシカには何度も遭遇。イタチ・テンのような小・中型哺乳類にも何度か遭遇していた。ほかにもキツネやクマを見たことがあると地元の人は言っていた。たしかにそんな自然豊かな環境だったので、遭遇する可能性がある哺乳類は色々考えられた。大まかにすら同定できないということのみが想定外だった。

オオカミだったのかもという発想

目撃後すぐ、この動物との遭遇は頭の片隅に追いやられた。フィールドワークで生き物を同定できないことは少なくないし、今回も「結局は小ジカとかテンとかその辺の哺乳類で、自分がそのとき同定できなかっただけだろうなー。自分は哺乳類の専門家でもないし…」と、さほど気にしていなかった。

しかし数日後、偶然にも、この記憶が無理やり引っ張り出されることとなる。調査を終え東京の研究室に帰ってすぐ、教授がニホンオオカミのことを僕たちに話してくれた。

昔はニホンオオカミがいてシカが食われていたこと。それによって生態系のバランスが今と違っていたこと。未だに生き残っていると信じて調査を続ける八木博さんという方がいること。などなど

 

その話を聞いた私と後輩は「そういえば調査地で特定できない哺乳動物を見ましたよ」と話を出し、その時の状況や動物の特徴を説明した。

 

すると先生は、「ニホンオオカミじゃないか?未だに生き残っていると信じて調査を続ける八木博さんという方がいるよ」と冗談か本気かわからない感じで言う。「南信地方は、八木さんが秩父野犬(オオカミの生き残りと考えられている動物)を見た秩父山系から比較的近く繋がっているように思える。俺らも調査に行くか!」と先生。どうやら教授は半分本気のようだ。

 

野生動物や生態系にものすごく精通している先生が半分本気なのならば、自分が見た動物がオオカミだった可能性がゼロではなかったんじゃないかと思えてきた。

 

同年の11月、別の調査のついでに教授同伴のもと再度南信地方の調査地に出向いた。ドライブレコーダ付きの車2台で数日間、夜に車を走らせながら例の動物を探した。100年以上も正式に記録されていない動物を探すということで、もちろん数日間で簡単に出会えるはずもなく、シカやイタチなどの動物を確認できただけで調査は終わってしまった。

あれは幻のニホンオオカミだったのか?

私個人としては、目撃した動物がニホンオオカミだったか?と聞かれると、「可能性は否定できないのでは?」という立場で「間違いなくオオカミだ」とはもちろん言えない。

ただ、たくさんのフィールドワークをしてきて、ほぼ全ての中型哺乳類は大まかに同定できるだろうと思っていたなかで、同定できない中型哺乳類に出くわしたことがまず不思議だった。テン、イタチ類、キツネ、タヌキ、アライグマ、ハクビシンは野生で出くわし実際に見たことがあったが、私の知識と経験からはどれにも当てはまらなかった。

 

野良犬ではないかと思われる方もいるかもしれないが、捨てられて野生化した飼い犬には見えなかった。また野良犬は比較的人里近くで見かける印象を持っていた私は、人里からだいぶ離れた山奥に1匹でいることから、「野良犬ではないか」という発想さえなかった。

ニホンオオカミ生存の噂

ニホンオオカミは1905年(明治38年)を最後に、正式な生存の記録がない。ただ、その後も類似動物の目撃例が複数有り、未だに生存しているという噂は絶えない。

生存説を強く信じている一人が八木博さん(NPO法人ニホンオオカミを探す会の代表)。1996年10月、秩父山中でイヌ科動物に遭遇し撮影に成功。その動物に「秩父野犬」という仮称を付け、ニホンオオカミの生き残りだったのではなかと推測。以降、生存の可能性を強く信じ、生存説を確かなものにするために未だに調査に励んでいる。

八木さんやニホンオオカミを探す会のブログによると、八木さん自身の遭遇体験のほかに、聞き取り調査で集めた目撃談、遠吠えや咆哮(ほうこう)を聞いたという話など、正式ではない記録はそこそこあるらしい。 

今後ニホンオオカミが再発見される可能性

実は、長年絶滅種とされていた哺乳類が最近になって観察された例は、世界的に見ると少なくない。New Guinea Sining Dog(50年以上たって再発見)、Pygmy Tarsier(約100年後に再発見)、Kashmir Musk Deer(約60年後に再発見)などがその例だ。

噂レベルの話にも触れると、私が今住むオーストラリアでは、フクロオオカミ(Tasmanian Tiger)の目撃情報もたまに挙がるようだ。日本では最近、ニホンカワウソの生存可能性について少し話題になった。

単なる噂と思われる目撃談もバカにできない。こうした噂話がきっかけで本格的な調査が行われ、再発見に至ったという例があるからだ。

 

ニホンオオカミについて言うと、噂レベルの話よりはもう少しだけ発見に近いような印象を受ける。八木さんのネット記事や「ニホンオオカミを探す会」のブログを読むと、それらしき動物の写真が撮影されていたり、未だにそれらしき動物の目撃談や遠吠えを聞いたという話があるようだ。

100年以上絶滅種とされていた哺乳類が再発見されるケースがゼロではないことを踏まえると、近い将来、ニホンオオカミ再発見の大きなニュースが聞ける可能性もゼロではないだろう。

八木さんから頂いた情報

今回ここに書いた哺乳動物の目撃については、2020年9月に「ニホンオオカミを探す会」及び八木さんにお伝えした。「高知県大月町でニホンカワウソ再発見か?」というネットニュースを見て、ふと当時のことを思い出し、情報提供しようと思ったからだ。

 

八木さんからは、「南信地区近くの青崩峠は、昔からオオカミ伝説があること」、「目撃現場周辺の地域にニホンオオカミの頭骨があること」、「南アルプス周辺から鳴き声の情報は届くが、姿の情報は初めてであること」などをご教示頂き、断定はできないと前置きされたうえで「遭遇した動物がニホンオオカミであっても、何ら不思議では無い」とのコメントを頂いた。

 

秩父山中の調査で手一杯なようだが、南信でも調査を計画したいとのことだった。実際は、コロナの影響もあり2021年春に予定していた調査ができなかったようだが。

 

八木さんは1996年に秩父野犬を目撃してから、人生をニホンオオカミ再発見に捧げているといっても過言ではない。2020年にメールを頂いた時点で、71歳になるとのことだったので、その年齢で野外調査をしているというのが本当にすごい。時間、労力、忍耐が求められる調査活動をしている八木さんとニホンオオカミを探す会には本当に頭が上がらない。

おわりに

もしかするとこの記事を読まれた方の中にも、イヌっぽい動物を深い山中で見たとか、鳴き声を聞いたとか、といった経験をした方がいるかもしれない。そんな方は、ぜひオオカミを探す会に情報を提供してみてはいかがだろうか。自身が些細だと思う情報が、調査している側には貴重な情報となるかもしれない。

 

ニホンオオカミがまだ生存しているというのはロマンのある話であるなと思うと同時に、ロマンではなく現実になってほしいと私は強く願っている。

できれば、長年人生を捧げて調査してきた八木さんに神様がご褒美を与えるような形で、「八木博さん、ニホンオオカミをついに再発見!」といった大ニュースが聞ければ最高である。

リンク

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