『読み書きされる英語』と、『話す聞く際の英語』は大きく異なるものである。
これ自体は、英語をある程度使いこなせる人は当たり前のように知っていることであろう。また英語の教育においても、重要なポイントとして広く知られていることに違いない。日本の英語教育においては、残念ながら、一般常識的なものとして定着していないような印象を受けるが。
参考として3本、『話される英語と書かれる英語の違い』について書かれたWebの記事を当記事の最後に載せるので、具体的にどのような違いがあるのか知りたい方はそちらも見ていただければと思う。
当記事では、最近、筆者が自身の会話を日本語字幕として文字起こしする機会があり、そこから実際に気づくことができた『話される言語(話し言葉)』と『書かれる言語(書き言葉)』の違いについて記載したい。筆者が気づいたこの違いは日本語でのものであるが、英語を含む他の言語についても似たような違いがあるはずだ。そうした意味で、当記事は英語学習者が、『読み書きされる英語』と『話す聞く際の英語』が大きく異なるということを改めて認識できるものとなれば良いと考えている。
まず、筆者が日本語字幕の文字起こし作業を行った経緯を簡単に説明すると、最近、筆者はYouTubeにて、日本語学習者向けの動画コンテンツを配信している。当該コンテンツは、日本語での会話を字幕付きで配信しているものである。日本人同士の手加減なしの自然な会話から、聞く力を伸ばしたり、会話で使われる表現を習得していただくことが、これらの動画で期待しているところである。そのため動画は、非常に親しい友人と筆者がざっくばらんに会話をしているものとなっており、リアルな日本語の会話が写されている。興味がある方は、是非ご覧いただければと思う(チャンネルリンク: iamahero - YouTube)。
ここでは、そうした我々の会話から、ある場面での字幕を3つほどピックアップする。
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----- 例1 -----
(日本の方言についての話にて)
私: 名古屋弁ってあんの?
友人A: ある。
友人B: あの、ほぼ、その県に1個あるんじゃない?
友人A: たぶんそう。県1個はちょっと、あれかもしれないけど。
でも、県に1個くらいの違いあると思うけど。
----- 例2 -----
(沖縄の方言についての話にて)
私: 「ハイサイ」って、どういう意味?
友人A: 「こんにちは」
私: 「こんにちは」なの?何で、そんな知ってんの?友人Aさん。
友人A: や、ググってる。
私: あ、ググってんのかい。
----- 例3 -----
(日本語の第一人称の話にて)
私: なんか、俺らみたいに仲良いやつらでいるときは、
「ワイ」 とか「ワシ」 とか、なんか、言(ゆ)ったりするよね?たまに。
友人A: んー、ネタ的な感じでね?
私: そうね。ネタで、「ワシは、この前...」 とか言ったりするよね?
友人A: ネット用語なんじゃないの?なんか。
友人B: 2ちゃんねる的に。ネット用語。
私: あー、ネット用語なんだ。
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上記例と当記事を比べて頂ければ、使われている表現も話しっぷり(書きっぷり)も、我々が話しているものと記事として書いているもので大きく異なることが分かって頂けるかと思う。
上記の日本語字幕から気づいた、自然な会話における日本語の特徴は下記4つである。
・感嘆詞(感動詞)が多い
・発音がインフォーマル(会話独特)なものに変わる
・文章が不完全で曖昧となることがある
・疑問形や同意を求める表現が多い
感嘆詞(感動詞)が多い
上記の例でもよく使われているように、「あの」、「あー」、「んー」、「えーと」などの感嘆詞が多く使われる。これはもちろん、メール等、メッセージをやり取りする場面を含め、文章を書くときにはほぼ使われる機会がないものである。
発音や語句がインフォーマル(会話独特)なものに変わる
下記が、上記字幕でインフォーマルな発音や語句となっているものの例である。
「名古屋弁ってあんの?」
→ フォーマルな文「名古屋弁ってあ【る】の?」
「何で、そんな知ってんの?」
→ 「何で、そんな【に】知って【る】の?」
「言(ゆ)ったりするよね?」
→ 「言【い】ったりするよね?」
これらももちろん、特にフォーマルな場面における書き言葉として使われることはほぼない。
文章が不完全で曖昧となることがある
聞き手に察してもらうことを前提に、文章が不完全で曖昧となることがある。意味が不明確なだけでなく、文法的に不完全なこともある。
下記が上記字幕からの抜粋である。
「県1個はちょっと、あれかもしれないけど。」
→意味:県1個はちょっと言い過ぎかもしれないけど。
「2ちゃんねる的に。ネット用語。」
→意味:2ちゃんねるで使われているネット用語。
「や、ググってる。」
→意味:(沖縄の方言を)Google検索している。
疑問形や同意を求める表現が多い
実際に上記の例のなかで疑問形がいくつか使われているうえに、「~よね?」、「~でね?」などの同意を求める表現もいくつか見て取れる。
以上が、自身や友人が使っている会話表現から筆者が気づいた話し言葉の特徴である。皆さんの母国語である日本語においても、書き言葉と話し言葉がどれほど違うのかがお分かり頂けたのではないかと思う。冒頭でも述べたように、当記事では、英語学習者の方々に、この『書かれる言語』と『話される言語』の大きな違いを、我々の母国語を例にとって認識して頂きたかった。
この違いは、英語習得の方法に示唆を与えてくれる。例えば、英会話を伸ばしたい人は、書かれている英語の表現を学ぶより、英会話独特の表現を学ぶべきである。たくさん英文を読むことによって語彙力や文法を伸ばしたからと言って、英会話で使える表現、聞き取れる表現はなかなか増やせず、リスニングやスピーキングの力は伸びないだろう。逆のケースも然りで、読み書きの力を伸ばしたい方が、英会話を伸ばすためのレッスンに通ったり会話から表現を学んだりしたところで、リーディング、ライティングの力はなかなか伸びないだろう。
ここでの示唆をもとに改めて自身の学習方法を見直したり、書き言葉’・話し言葉の違いを念頭において英語習得に取り組んでいくことで、自分が伸ばしたい力を効率よく伸ばすことができるに違いない。
【参考】話される英語と書かれる英語の違いについて記載されている記事
thefluentlife.com
theconversation.com