我々は、母国語である日本語を使いこなし、非常に簡単なことから難しいことに関してまで会話することができる。当記事では、この母国語を使いこなせることが他国語の習得を難しく感じさせてしまうのではということを述べたい。
日本語での会話の非常に簡単なものの例として、3歳くらいの子供を相手にした会話を思い浮かべてほしい。
自分:これ何?
子供:おやつ。
自分:年はいくつ?
子供:3つ
自分:なに描いてるの?
子供:パパの顔
逆に難しいことの例として、下記のある職場でのやり取りを挙げる。
上司:この機械を使った作業の中で、あなた方の作業効率を下げるものをいくつか挙げてくれ。
自分:基本的に時間がかかるのは、機械の設定を変更するときです。ただ、設定の変更はほとんどの場合やむを得ないので、効率を下げているわけではないですね。ただ、センサーが不調で、センサー周りの設定を何度も微調整しなければならず、時間が取られます。センサーの不調が改善すれば、この作業のなかで無駄に時間を取られるものは無くなるはずです。
上司:センサーの不調はどの頻度で起こるの?
自分:10分に一度です。
語学習得をする際、自分が母国語で表現できることを基準に考えると、他国語の習得は非常にハードルが高いように感じてしまう。これは、母国語を高いレベルで習得している人にとっては顕著だろう。私個人的には、成人していれば母国語を高いレベルで習得していると考えて良いと思う。もちろん、ビジネス分野、専門分野などでもっと高度なレベルで母国語を習得するのはさらに年を重ねながらであるだろうが、普段普通に生活するのに必要なレベルという意味では、成人するまでに覚えている母国語で十分高いレベルにあるだろう。
成人した大人が英会話を習得する際、「日本語だったらこう説明できるのに、英語では何といえばいいのかわからない」という場面が多くあるはずである。一方、例えば3歳の子が英会話を勉強しようとなると、そもそも日本語でも高いレベルの会話をできないので、大人が感じるよりもハードルが低く感じると思う(3歳の子がハードルの高さを意識しているとは思えないが)。大人と3歳の子で、到達すべき目標レベルが全く異なり、その達成に必要な語彙力も文法も異なるのである。
上で1つ目として挙げた例で言えば、3歳の子は下記のことを聞き取れて、話せれば十分なわけである。
自分:What's this?
子供:Lollies.(オーストラリアではキャンディーなどのお菓子の意味)
自分:How old are you?
子供:Three.
自分:What are you drawing?
子供:My dad.
中学レベルの英語教育を受けている人からすれば、このくらいの英語なら自分でも聞けて話せると思うはずだ。
逆に2つ目の例のようなことは、非常に高い英会話力を持つ人でない限り、同じようなことを言えないだろう。筆者でも言えない。
実は、この会話は昨日(2020/6/3)職場でのやり取りをモデルに作った例である。会社のトップ(Gerneral Manager)が私のいるセクションに電話をかけてきたときのやり取りで、実際の英語のやり取りはだいたい下記のようだった。
GM:Which parts of the machine waste your time? What are the main problems of the machine?
自分:When we change the settings, it takes our time, but that's not a main problem. The sensors are main problems. The sensors are not good very often, and we have to adjust them. That wastes our time.
GM:How often does it happen?
自分:Probably once every 10 minutes in average.
日本語で記載した例と比較すればわかると思うが、英語では伝えたいことを正確に伝えきれていない。自分が知っている簡単な表現をうまく繋げ、伝えたいことに近いことを察してもらえるようにしているのである。渡豪後1年7ヶ月になるが、私の英会話力は、日本語と同じように英語を話せるレベルからは未だに程遠いところにあるのは明らかである。日本語を30年近く使って生きていることを考えると、1年7ヶ月は非常に短い期間なので、このレベルの違いは当たり前のことであり、特に筆者は悲観していないが。
英語習得の時期に関する一般的な見解として、小さい頃から英語を学ばせたほうがよいという話をよく。この理由の1つには、ここで挙げたようなハードルの高さに対して受ける印象が異なり、こどもの方が英語にとっつきやすいからというのもあるのかもしれない。
ただ、このハードルの高さに対する印象の違いを理解していれば、大人であっても、もう少し気楽に英語習得に臨めるかもしれない。「ハードルが高く感じるのは、母国語にそれほど精通しているからであり、実際は小さい子供が喋る非常に短くて単純な文章から話せるようになってけばよいのだ」と割り切るようにするのである。