日本の教育課程では明らかに英語の発音が軽視されている。
それは、小学校~高校までの教育で発音のテストがないこと、英語の先生が日本人であり、ほとんどの先生が非常に強い日本語アクセントで英語の発音を教えていることからも見て取れる。また、少なくとも筆者が中学、高校に通っていたときには、授業で発音の練習をした記憶があまりなく、未だに発音を教える時間はほとんど割かれていないのではないかと思う。
そうした教育の問題もあり、日本人のほとんどの方が非常に基本的な英単語の発音でさえ正確にできないはずである。
例えば下記の単語を正確に発音できるだろうか。どれも中学レベルの非常に基本的な単語である。
girl、at、were、got、your、turn
これらの英単語の正しい発音は記事の最後に正解を記す。
この記事では、英語の発音を習得することは極めて重要だということと、発音を意識するうえで役立つIPA(International Phonetic Alphabet)について伝えたい。
私は、渡豪する前までは、英語の発音の重要さに気付けていなかった。しかし、こちらに来てからは、時には文法よりも重要となる場面さえあるという印象を持っている。発音が重要な理由は非常に単純で、正しく発音できないと、文章、フレーズ、1つの単語でさえ伝えられないからである。
ここで、私の発音が悪かったせいで伝えたいことを伝えられなかった例をいくつか挙げたい。
■スーパーにて 渡豪後3ヶ月
タバコを購入しようとしたときのことである。
Can I have tobbaco? と言ったが店員に伝わらなかった。おそらくtabbacoの発音が悪かったからだと思う。2、3回言っても伝わらず、タバコの銘柄の一覧表に指をさしてやっとわかってもらえた。店員は私の後ろに並んでいる客と顔を見合わせて笑っており、恥ずかしい気持ちと非常に不愉快な気持ちになった。
tobbacoの正しい発音は、イギリス英語では/təˈbæk.əʊ/である。
ちなみに、この経験の前も後も、タバコ、手巻き用のフィルター&ペーパーを購入するときに、発音が悪いせいで伝わらなかったことが何度もあった。
どうでもいいが、当時は喫煙者であったが、今は禁煙者になって9ヶ月が経つ。
■職場にて 渡豪後7ヶ月
こちらのスーパーにWoolworthsというのがあり、職場でそのスーパーへの出荷について伝えないといけないことがあった。
上司: Who is that for?
それはどのお客さんへのもの?
私: Woolworths
これが伝わらなかった。自分で正しい発音をしているつもりでも全くダメだったようで、5度くらい言ってやっと察してもらうことができた。わかってもらうまでに、明らかに上司を不機嫌にさせてしまった。
このWoolworthsの発音にはこの後も3ヶ月ほど問題を抱えており、伝わらなかった度に改善を試みたが伝わらないことが何度もあった。
悔しい思いを何度もし、業を煮やしてあるときホームステイのホストマザーに発音を聞いた。すると、woolと同じ発音をしたあとにwordsと言えばいいと教えて貰えた。それに従うと、Woolworthsのオーストラリアでの正しい発音は、/ˈwʊl.wɜːz/となるはずだ。
これらの例から、単語1つの発音が正しくないだけで伝わらないことさえあると分かって頂けたと思う。ここに挙げた例はほんの1例で、これ以外にも発音のせいで言いたいことが伝わらなかったことが山のようにある。
未だにそのようなことがあるが、今はまだだいぶ改善したほうである。一度でわかってもらえなかったときに、いくつか近い発音を発してみて、察してもらえることも多くなった。例えば、上のWoolworthsの例だと、/ˈjuːl.waːz/ と誤った発音をして言って聞き取ってもらえなかった場合に、「/ˈjuːl.wɜːz/ ?、/ˈjuːl.wɜːz/?、/ˈwʊl.wɜːz/」と発することで、言いたいことを察してもらえるようになった。
ここまで、英語の発音が重要であると納得してもらえるよう例を挙げて述べてきたが、ここからは正しい発音を習得するために役立つIPA(International Phonetic Alphabet)について述べたい。
上記にて正しい発音を記述する際に、/təˈbæk.əʊ/や/ˈwʊl.wɜːz/というのを何の説明もなく使ったが、これがIPAによって記述された発音である。IPAは、ある言語の発音を示すために使われる、ラテンアルファベットやギリシャアルファベットなどと言われるものをベースとした文字形式であるとのこと。
このIPAの文字に対応した正確な音を覚え、その文字のとおりに音を出せば正しく発音できることになる。
非常に重要なポイントとして、このIPAの文字に対応する音を覚える際に、決して日本語の音に対応させた形で覚えないことである。例えば、『æ = アとエの中間あたりの発音』、『əʊ = おう』などという覚え方は絶対にしてはいけない。たとえ『æ = アとエの中間あたりの発音』などと感じるとしても、覚えるときや発音するときに日本語を思い浮かべてはいけない。
日本語の音と照らし合わせて覚えてしまうと、正しい発音を探すときに、常に頭の中で日本語の音の座標軸のようなものの上で音を探すことになってしまう。これの良くないところは、日本語の音の座標軸上では正確に座標を刻めない発音に出会ったときであっても無理に座標を刻んでしまい、日本語の音に偏った発音が定着することに至ってしまうからである(下図参照)。
図:日本語と英語の音の関係性についてのイメージ。IPAの æ、日本語のアとエを例に。
筆者は初め、æ の音は、アとエの間の音の間あたりにあるものだと覚えていた。
だが実際には、æ の音の位置は、日本語を参照することでは発音できない位置にあるかもしれない。
上記の理由で、英語と日本語の発音は全くの別物と考えて、IPAの音を覚え、まっさらな状態から新たに英語の音の座標を頭のなかに構築すべきと考える。
IPAの音は、特に母音の音の習得に時間がかかるであろうが、これを習得したあとに英語の発音が著しく改善することを考えると、習得しない理由はない。
筆者はIPAの発音の習得のために、IPAの音を確認できる無料アプリをiPhoneに入れており、それ使ってたまに音を確認することもあるし、発音が気になる単語に出くわしたときにWebの英英辞典上でIPAによる記述を確認したりしている。
IPAの音を確認できる無料アプリは「Sounds: The Pronunciation App FREE」(Springer Nature Limitedによるもの)というもので、イギリス英語とアメリカ英語の2パターンでIPAの音を確認できるので、オススメである。
英英辞典は、Google検索によってウェブ上で使用できるCambridgeのものが、IPAの発音記号と合わせて音も確認できるのでオススメである。これもイギリス英語とアメリカ英語の2パターンで確認できる。
最後に、記事の序盤で挙げた基本的な単語についてイギリス英語での発音の正解をIPAで記したい。音についてはCambridge英英辞典等で個々の検索をして確認してほしい。
girl /ɡɜːl/ → 日本語のガールのような発音を頭に思い浮かべてはいけない
at /æt/ または /ət/ → アットという発音ではない
were /wɜː/ または /wə/ → ワーという発音ではない
got /ɡɒt/ → ガットでもゴットでもない
your /jɔː/ または /jə/ → ユアでもヨアでもない
turn /tɜːn/ → ターンという発音ではない